東北一の酪農郷である葛巻町で経産牛65頭、育成牛35頭など110頭を飼養管理する大地さん。北海道やカナダでの実習を経て実家に就農し12年目を迎える。収益最大化のため自らのスタイルを模索し、その取り組みに成果を感じている。「酪農」を地域の基幹産業と捉え、未来に向けた新たなビジョンも描き始めている。
酪農家の2人兄弟の長男として育った大地さんは、幼い頃から牛舎で牛の世話を手伝っていた。「将来は家の酪農を継ぐつもりだったので、他の仕事は考えていなかった」と言う。
酪農を学ぶため、迷わず盛岡農業高校へ進学。その後、共進会への興味も高く、共進会に力を入れている北海道農業専門学校に進んだ。「共進会は子どもの頃から父に付いて行って、小学生の時にはリードマンも体験し、興味を持つきっかけになった」と振り返る。
その後、北海道とカナダの牧場で実習し、乳牛の飼養管理や改良の知識を学び経験を積んだ。「カナダの牧場は、牛や受精卵を買いに世界中から人が訪れるほど有名な牧場だった。雑誌で紹介されるような乳牛がいて、その牛の搾乳や毛刈りなどを体験できたのは良い経験になった。実家の作業が忙しいなか、反対しなかった両親にも感謝している」と話す。その後、実家に戻り就農した。
国内外で実習を重ねたことで就農後もスムーズに仕事ができると思っていたが、上手くいかず壁に直面することも多かった。「色々経験してきたので、実家での仕事は問題なくこなせると思っていたが、実際はそう簡単ではなかった」と当時を思い起こす。また、「酪農は好きな仕事だが自分にはセンスがない」とも話し、失敗から多くのことを学び、疑問があれば仲間や獣医師に聞くなど、妥協せず多くの知識を得る努力をした。「人から学ぶことは、今も大事にしている」と笑顔を見せる。
そして、平成30年の結婚を機に、利益が上げられる自分に合った経営スタイルの確立に注力。繁殖成績を上げることが収益向上に繋がると考えた。現在はゲノム解析を利用した交配計画に取り組む。また、2週間に1度、繁殖検診を受け、繁殖サイクルを回す努力も怠らない。さらに性判別精液の使用で効率的に後継牛を確保し、和牛受精卵の移植による個体販売額の増収にも取り組む。「今は繁殖成績が良く、乳量も就農当時の2倍以上になっている。費用や手間はかかるが収益につながるので、この状態を維持したい」と意気込む。
一方、改良では町の共進会で2連覇するなど結果を出している。今年10月に開催される第16回全日本ホルスタイン共進会については「前回は次点で出場を逃したので是非出場したい」と話す一方「負けても悔いが残らないように努力はしてきた」と穏やかな表情を見せる。
自らの経営スタイルが確立しつつある中、令和8年には経営委譲を予定している。「今は良い経営を続けることが一番だが、将来的には法人化して、空き牛舎を活用できるような経営ができれば」と話す。「酪農」は地域の基幹産業である。町の未来のためにも授精師や獣医師、酪農ヘルパーなどの酪農に関わる人材をしっかりと確保し、生産基盤を揺るぎないものにしたいと考える。「好きだけどセンスがない」と堅実に自らを振り返りながらも、地域の未来を見据える若き担い手。目指す理想は高いが着実に歩を進めている。
忙しい日々ですが、2人の子どもと家族で出かける時が楽しみです。
※広報誌「夢郷」 2025年4月号掲載時の情報です。掲載情報が変更となっている場合がございます。