農のかたち〜私流〜

本気の失敗は 自分のためになる

八幡平市で水稲37‌ha(主食用米15.5‌ha、飼料用米14.4‌ha、WCS5.9‌ha)、小麦2.0‌ha、大豆4.5‌haを作付けする「株式会社かきのうえ」は、8代続く米農家。令和2年1月に法人となり、代表取締役の立柳慎光さんと妻、両親、従業員1人で作業をこなしている。少ない人員と設備投資を抑えた経営を進めるため新たな栽培技術を積極的に取り入れ、作業分散できる作付けしている。

8代目の米農家

会社員や自衛隊を経て、慎光さんが35歳の就農当時、水稲の作付けは12‌haだった。「将来的に離農者が増え、作付面積は拡大していくと当時から感じていた」と話す。2年目には父から経営を受け継ぎ、法人化も視野に研修会や勉強会にも積極的に参加していた。

トラックに乗り込み作業をする様子

米作りをする上で必要な苗を作る育苗ハウスは現在も変わらない3棟のみで、16‌ha分の苗しか作ることができない。面積の拡大によって施設や機械、人手を増やせば作業をこなすことは簡単だが、経営の中身としては良くならないと考えていた。

2年目には、育苗を必要としない鉄コーティング種子の湛水直播に取り組み始めた。飼料用米を作付けし、反収740㎏の収量をあげることができた。その後も苗箱を少なくできる密苗やドローンの導入など、新たな技術を積極的に取り入れてきた。また、主食用米は6品種、飼料用米は3品種を作付けし、乾田直播栽培にも取り組むことで、現在の面積の作付けを可能にしている。今年からは地元の畜産農家からの依頼もありWCSの作付けも拡大した。

作業中の立柳さん

少ない労力と施設で面積を拡大する中で重要になるのが、春までに作り上げる緻密な作付け計画だ。水が来るタイミングや無駄な苗を極力作らないこともあげられる。移植栽培でしか作れない品種の作付け場所や面積、乾田直播での作付けなどのシミュレーションを繰り返しながら、春を迎えている。

将来を見据えて

今後も面積の拡大が予想される中、福利厚生や雇用のしやすさを考え令和2年1月に法人化した。現在1人の従業員だが、忙しい中でも週に1日の休暇取得を続けている。

そして「本気の失敗は自分のためになる」と話す慎光さんは、今までも新たな技術を積極的に挑戦してきた。令和2年の秋からは初冬直播にも取り組み始めた。雪が降る前の圃場に直播することで、春に行う直播作業を初冬に行うことができる。「4年目は降雪が遅くてできなかったが、計画を見直せる時期なのでリカバリーは可能」と話す。初冬直播が可能になると、面積の拡大にもつなげられる。そして、鉄コーティングの作業は2月からなので、通年雇用もしやすくなるメリットもある。

水田での作業中の立柳さん

積極的に新しいことにチャレンジすることで失敗もしてきたが、すべて自らの知識や経験になっている。そして、経営を良くする新たな取り組みの模索も日々続けている。

農業用ドローンで作業をする立柳さん

「農業で100点はなかなか取れない」と話す建太さんは、毎年1年を振り返り、来年に向けて計画、実行、評価、改善を繰り返している。自営を目指していた青年が、経営という視点から未来の農業を作り上げている。

プロフィール

立柳 慎光

立柳 慎光 たちやなぎ しんこう さん

株式会社かきのうえ代表取締役

※広報誌「夢郷」 2024年9月号掲載時の情報です。掲載情報が変更となっている場合がございます。