岩手町で妻と両親と経産牛60頭、育成牛40頭を飼養管理する一二三さん。実家の酪農業に携わり10年目を迎える。元々は実家の酪農を継ぐことを考えていなかったが、両親が規模拡大の話しをしたのをきっかけに就農し、今ではやりがいを感じている。収益性の高い経営を目指し、まずは目の前のやるべきことを一つずつこなしている。
子どもの頃から牛と触れ合っていたので牛は好きな一二三さんだったが、仕事という概念はなく、手伝うということはあまりなかった。5人兄弟の末っ子で育った一二三さんは「兄や姉が就職していくのを見ていて、家の酪農の後継ぎはどうなるんだろうなぁと考えた時はあった」と話す。気に留めたことはあったものの、両親から後継ぎの話しもなく、普通に就職していく道を歩んでいった。
高校を卒業して地元の製材会社に就職した一二三さんは、会社に勤めていることに違和感はなくサラリーマンとして生活していた。しかし、働き始めて10年程経ったころ、両親が規模拡大の話しをしているのを聞いた。しかし、年齢的に考えても今からというのは現実的ではないという結論を出そうとしていた。
その時、一二三さんは「俺がやる」という気持ちを両親に伝えた。「昔、後継ぎのことを考えたことが心のどこかににあり、その気持ちが大きくなったんでしょうね」と苦笑いする。やるのであれば早い方が良いと考え、勤めていた会社を辞めて平成27年の春に就農した。
就農はしたものの、実家を継ぐことを考えていなかったため知識はなかった。「何となく見てはきたが、実際の作業の内容は分からない状態だった」と、当時を振り返る。一つ一つ両親から教えてもらいながら、作業を覚えていった。「牛は好きだったが、始めの頃は牛を見る目がなく発情のタイミングも分からなかった」と話すが、3年経つ頃には、仕事を任されるようになっていた。そして、4年目の春には待望であった新築の牛舎が完成し、当初は30頭ほどだったが徐々に頭数を増やしてきた。
「今の規模がちょうど良い」と話す一二三さんの中には、収益性を意識した経営の考えがあった。「頭数を増やせば雇用も必要。現状の労力を考えると、今の規模で収益性を上げる方が現実的だと感じている」と話す。規模拡大に伴い粗飼料の3割を購入しているが、牧草地を増やして100%自給できるように動いている。
また、時間を見つけては牛舎に足を運び、牛の体調を確認し乳質の向上に取り組み、令和4年には生産部会から高品質生乳生産表彰を受けている。そして「生産性向上のために改良も意識し、今後は共進会への出品も考えている」と話す。将来の大きな目標よりも、今やるべきことをしっかり見極め、一つずつこなすことで未来を作り上げていくのだと感じられる。
幼い頃にふと思った「どうなるんだろう」という気持ちが次第に大きくなり、気付いた時には実家の酪農を継いでいた一二三さん。天職ともいえる酪農家としての未来が楽しみだ。
釣りが好きで毎年わかさぎ釣りに行っていますが「今は子どもと一緒にいる時が一番楽しい」と話す一二三さん。
※広報誌「夢郷」 2024年4月号掲載時の情報です。掲載情報が変更となっている場合がございます。