農のかたち〜私流〜

場面を意識した品種選び

雫石町でユリを中心に花卉を生産する有限会社猿子園芸。代表を務める猿子祐太さんは母と従業員ら6人で、ハウス1ha、露地1.5‌haでユリを生産し、1.2‌haで様々な花を生産している。主力のユリはオリエンタルユリ39万本、スカシユリ26万本を年間で出荷。色、形が違う700品種の中から、さまざまなシチュエーションを意識し、選び抜いた約30品種のユリを栽培している。

農業好きな少年

父の代から始めた花卉農家に生まれた祐太さん。まわりの環境もあってか農業が好きで、高校は盛岡農業高校に進学した。「高校の時は、圃場の空いた所で自分が好きなものを育てていた」と当時を話し、農業が好きだったということが伺われる。その頃、興味を持っていたのが有機農業だった。高校卒業後は東京都にある農業者大学校に進学。1年間は長野県の農家で研修し、その後は有機農業による支援活動を手伝い、海外6か国を回っていた。

ユリの生産をしている猿子さん

卒業後は、父が忙しくなったため実家に戻り就農し、花の栽培を始めた。当時は、ユリの他にリンドウと小菊を栽培していたが、色や形、出来方が違う約700種類あるユリに興味を抱いた。「リンドウや小菊は仏花としてのイメージが強いが、ユリは多くの品種があり、品種によって使える場面も変わる面白さを感じた」と話す。就農から4年かけて、小菊とリンドウをやめてユリの作付けを増やした。ハウスで栽培するユリは11月~6月に出荷、7~10月は露地栽培のユリを出荷し、年間を通して出荷できるサイクルを確立していった。

ユリの生産をしている猿子さん

父の代からのバトンを受け

「花農家として最初の頃は分からないことは多かったが、先輩農家によく聞いていた」と話す祐太さん。父の世代の生産者たちが将来を見据え生産部会を設立させていた。雫石町では現在もユリやリンドウ、小菊を始めとした約30種類の花が生産されている。生産部会は、違う花を栽培するそれぞれの農家を尊重する役割も担っていた。「部会では、若い人の話しも尊重してもらい感謝している」と笑顔をみせる。平成25年には若手の花卉農家で構成する「雫石HANA会んだんだ」を立ち上げ、主体的に動ける場を作った。若手メンバーで研修に行ったり、花育活動にも力を入れていた。「花を楽しんでもらおうと花育活動を始めたことで、実際に利用する人の声を聞く事ができた。新しい発見もあり、自分たちが出荷している花の価値を再認識することもできた」と当時を話す。

3年前からは、地元の堆肥などを使った有機栽培も始めた祐太さん。「学生の頃に学んだことがやっと活かせました」と苦笑いする。一方で「日本は特別な時に花を使うという意識があり、日常生活にもっと花を浸透させるためにも花業界全体で取り組んでいければ」と、先を見据えている。

ユリの生産をしている猿子さん

近年、新たな花卉生産者の仲間も増えている雫石町。親世代が築いた産地のバトンが渡されたと感じている祐太さん。今までの貴重な経験から「若い人の熱量は人を動かす」という自信も感じられる。

プロフィール

猿子 祐太

猿子 祐太 さるこ ゆうた さん

沿岸の市場に出荷に行ったときは子どもたちと岸壁で釣りをしたりします。「時間が取れたら舟釣りに行きたいですね」と笑顔で話す。

※広報誌「夢郷」 2023年8月号掲載時の情報です。掲載情報が変更となっている場合がございます。