盛岡市の玉山地域で、和牛繁殖牛を飼養管理する存さん。現在は、従業員を1人雇用し、妻と親牛64頭と子牛42頭を飼養管理している。牛のストレス軽減を意識した飼養管理を心がけ、子牛を購入する肥育農家から信頼される繁殖農家を目指している。妻と協力しながら日々牛と向き合い、今年で9年目を迎えている。
愛知県で電気関係の仕事をしていた存さん。父が水稲と繁殖牛を飼養していたが、平成24年のお盆に帰省した時に牛の頭数を減らしていくという話を聞いた。頼まれる田んぼの面積が拡大していくことで、牛に手を掛ける時間がなかなか取れなくなっていたのもきっかけの一つだった。「やめるのはもったいない」という気持ちもあり、自分がやると決断した。
仕事をやめて、父のもとで牛の管理を学び、3年目には経営を任され、牛も70頭まで増頭してきた。しかし、経験がないところから始めたこともあり、発情のタイミングを見過ごすなど当初は苦労も絶えなかった。
そんな中で、存さんの助けとなったのが地元の畜産農家の人たちだった。分からないことを教えてもらったり、どうすれば良くなるのか相談することができた。「色々教えてもらったことで今の自分があるので感謝している」と話す。そして、「牛だけで食っていくのは簡単じゃない」と言っていた父の言葉も、存さんの原動力になっていた。
繁殖農家としてやっていくためには、肥育農家から評価される子牛を出荷していかなければならない。そのため、平成29年から「肉牛快飼塾」に参加し、繁殖技術を学んできた。翌年には家畜人工授精師の資格も取った。「発情のタイミングを見極める精度が、授精師の資格を取ったことで確実に上がった」と話す。
発情を見逃すことで子牛の出産のサイクルが伸び、繁殖農家として経営面ではマイナスにもなる。また、子牛の初期の管理次第で、その後の発育も変わってくる。下痢をしたり餌を食べなかったりすると、子牛としての評価も下がっていく。ミルクのメーカーを変えたり、毎日牛の様子を見ながら、こまめな管理を徹底している。そんな日々の積み重ねが、市場に出荷した子牛を導入した肥育農家が、枝肉でチャンピオンに輝くという結果にも繋がっている。
「将来的には質を上げて50頭規模での経営を考えている」と話す存さん。質を上げるためにも牛のストレスを極力減らしていく必要がある。牛舎には扇風機を設置し、3年前には敷地内にパドックを作り以前は放牧していた牛を見える所で管理している。いつの日も牛と向き合っている存さんだが「忙しい時も子育てをしながら一緒に働いてくれる妻の存在は大きい」と話す。
「今は、繁殖農家としての経営を安定させることが一番」と話す存さんだが、一方で「妻が野菜作りを始めたので、将来的には会社化しこの地域で色々なものを作っていければ」と微笑む。二人三脚で歩む先に、地域農業の未来が描かれていくようだ。
※広報誌「夢郷」 2024年10月号掲載時の情報です。掲載情報が変更となっている場合がございます。