八幡平市で、和牛繁殖牛を飼養する誠さん。母の純子さんと会社勤めをする父の勇さんと親牛30頭と子牛17頭を飼養管理し、就農から7年目になる。
子どもの頃は、水稲や繁殖牛を飼養する祖父を両親と一緒に、田植えや稲刈り、牧草の刈り取りなどの手伝いをしていた。その後、工業高校へ進学した誠さんは、IT関連の会社に就職しエンジニアとしてネットワークシステムの構築などの仕事をしていた。
平成25年、祖父が高齢などにより継続が難しくなり、母が経営を受け継いだが、もともと腰を痛めていたため機械作業や力仕事は誠さんが手伝っていた。今後の事を家族で話し合い、誠さんが継ぐことを決心した。「いつかは継ぐこともあるのかなと心の片隅では考えていたが、かなり早いタイミングでした。
正直、知識がないので、どこまで覚えれば良いか分からず不安でした」と当時を話す。
就農してから盛岡農業高校の特別専攻科に通い、必要な知識を学びながら家畜人工授精師や受精卵移植師、削蹄2級、電気工事士などの資格も取得した。「最初は知識がない分、先が見えず不安だったが、学んでいくうちに一つずつ理解できるようになった」と話す。
そして、祖父からは木を切り出して小屋をつくるなど物の作り方、母からは長年培ってきた牛の見方を学ぶ誠さん。「母からは、『とにかく牛を見ろ!』と言われましたね」と苦笑いする。ちょっとした体調変化を見逃すことで風邪や病気、時には事故にも繋がるため牛の変化や体調確認の必要性を叩き込まれてきた。
また、牛の飼養管理の中にIT関連で学んできた技術を取り入れている。牛舎内のネットワークカメラやウォーターカップ用給水設備の不凍電熱線管理装置などのシステムを自作し、牛舎の修繕をそれに併せて行った。「スマートフォンで牛舎から離れていても牛の様子を確認でき、電熱線の電源も自動でできるので、今は母もスマートフォンで確認しています」と話す一方、「便利ではあるが、やはり最後は自分の目で確認することが大事」と話す。
自分たちが働きやすい環境はもちろんだが、牛がストレスなく安心できる環境作りを特に意識している。システム導入後は分娩事故もなくなり効果も実感している。
地元では、八幡平市で生まれ育った和牛で、一定の基準以上のものだけが「八幡平牛」のブランドで販売されている。「繁殖農家は子牛を売ることが仕事ではあるが、子牛を買って育てる肥育農家さんが育てやすい子牛をしっかり育てていきたい」と話す誠さん。就農してから耕畜連携など牛と地域のあり方も知り、出荷する先のことまで意識するようになった。
就農当時は飼養頭数を大幅に増やすことでトラブルもあったが、やっと軌道にのってきている。
そして「これからどんな時代がくるか分からないので創造力や視野を広めるため、人との関わりを大切にし、学べるものは学んで知識を増やしていきたい」と目を輝かせる。
そして「子どもたちがやりたいと思う産業にしたい」と話す一方、母が元気なうちは働き続けられるような環境づくりも考えている。誠さんのやさしさを感じながら牛も育っているように感じられる。
打楽器演奏を18歳の時から始めた誠さん。イベントなどにも出演して演奏していました。
※広報誌「夢郷」 2022年3月号掲載時の情報です。掲載情報が変更となっている場合がございます。