勝負飯記念日
山田 結心
岩手大学教育学部附属中学校3年
去年の二月。弟が少年野球チームに入った。ずっとやりたい、やりたいと熱望して、念願叶ってチームに入った。
四月になり、弟は四年生になった。野球はシーズンに入り、練習試合や公式戦で丸一日野球に行っていることが多くなった。それに伴って、昼食や補食を持っていく。最初は弁当箱に弁当を持っていった。ところが、毎週毎週、残してくるようになったのだ。聞けば二試合くらい予定が組まれていると、十五分くらいしか休憩時間がないという。パンや簡単に食べられるものを母が用意してみたのだが、米が一番お腹が一杯になるのだという。
弟は同級生の中でも体が小さく、体重も軽い。そこに丸一日運動してくるのだから、夜しっかり食べてほしいのだが、疲れて帰ってきたり、夏になり暑くなってくると食が細くなった。
そこで考えたのが、我が家の勝負飯。
おにぎりの中に具材を色々詰め込んでしまうのだ。この方法は作ってる家庭はたくさんあると思う。我が家で必ず入るのは唐揚げと昆布。中身は各々の家で様々だと思う。小さめのおにぎりに食べられる具材を入れた勝負飯は、弟にも大好評だった。残してくることが少なくなったのだ。
母が、この勝負飯を作り始めてから、私は自分の中学受験の時を思い出していた。受験の日、私の弁当は、この具材の中身がおにぎりの中に入った爆弾おにぎりだったのだ。ちょっと塩味のするご飯と、弁当箱に入る予定だった具材が中に入っているおにぎり、卵焼きとデザートの入った小さい弁当箱。
何かあると我が家では、このおにぎりが勝負飯になった。弟の場合は、いつ集合がかかっても大丈夫なように一口サイズで。
まだ四年生で、控えの選手の弟はほとんど試合に出ることはなかった。七月頃からようやく、新人戦チームでの練習や、公式戦が始まったので、試合に出ることも増えた。
「美味しかったよ!。」
真っ黒に日焼けした弟が帰ってくる。
「今日は試合出たの?。」
「出たよ。」
「三振か?エラーか?。」
そんな話をしながら弁当袋を見ると、ミニミニの勝負飯おにぎりは一つも残っていない。
ある日、卵焼きを中に入れてほしいと言ったことがあった。卵焼きはさすがに別で弁当箱だろう…。思ってはいたが、口には出さなかった。
朝早くから練習試合に行った弟が今日も真っ黒になって帰ってきた。
「今日ね、初めてヒット打てたんだよ!。」
弟のヒット記念日
勝負飯に新たなメニューが加わった日。
おにぎりin唐揚げ、卵焼き。弟はご飯と母の作る卵焼きが世界一だ、といつも言う。
お米はどんな時も活力になる。そこに愛情というどこにも売っていない調味料が加わって、最大の勝負飯になる。
最近では弟も自分でおにぎりを握ってみることが増えた。中に具材が入っていると握るのにコツがいる、ということも最近分かったらしい。
私は今年受験生。三月には、どこかしらの高校を受験しているだろうと思う。きっとその時も、三年前と同じように勝負飯の爆弾おにぎりにちがいない。
今から弟のように具材を考えてみようか。これは合わないだろう、と思っても、ご飯と好きな具材の組み合わせなら、私も、もしかしたら弟の
「ヒット記念日」
のように、一発逆転があるかもしれない。
我が家の勝負飯、爆弾おにぎり。
これからも、私たちの背中を押してくれる勝負飯であり続けるだろう。